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大阪地方裁判所 昭和58年(わ)922号 判決 1984年6月08日

主文

一、被告人を懲役二年に処する。

一、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

一、訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五六年一二月八日、各種石油類の販売を目的とする資本金一〇〇万円の鈴木産業有限会社(同五七年一月一二日以降の本店所在地福岡市中央区渡辺通五丁目二四番三〇号東カン第一ビル)の代表取締役に就任し、同五七年三月一八日、同社の代表取締役を辞任後も実質的には同社の代表者として、同社の業務全般を統轄しているものであるが、同年一月二六日、同社は軽油の元売業者である秋定砿油株式会社(代表取締役秋定重一)との間に石油類の取引基本契約書を締結し、秋定砿油株式会社から継続的に軽油その他の石油製品の供給をうけ、これを販売することを業とするに至り、鈴木産業有限会社における軽油の取引につき福岡県から軽油引取税の特別徴収義務者の指定を受けていたが(同月二九日、右特別徴収義務者の登録)、被告人は、同社から軽油を仕入れていた大新商事株式会社(代表取締役吉岡信幸)の実質的経営者である阿部通夫と共謀のうえ、鈴木産業有限会社の業務に関し、別紙犯罪一覧表記載のとおり、同年二月一日から同年四月五日までの間、同社が同社において販売先に軽油合計8,373.4キロリットル(課税標準数量7,289.666キロリットル)を引渡したのにかかわらず、徴収して納入すべき軽油引取税に係る納入金合計二億一四三万八八八三円をそれぞれ納入期限までに福岡県に納入しなかつたものである。

(証拠の標目)<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、第一に軽油引取税不納入罪が成立するためにはその主観的要素として未納入のまま納入期限を徒過したことの認識、認容にとどまらず、不納付の意思(脱税の意思)を要するものと解すべきであり、被告人には右不納付の意思が欠けていたこと、第二に約束手形の差入も納入金の納入と解すべきであり、被告人はいずれも納入期限内に約束手形を差入れていること、第三に阿部との共謀の存しないことを理由として、被告人には本罪が成立しないと主張する。

そこで検討するに、前掲各証拠によると被告人は自から昭和五七年二月分軽油引取税納入申告書を同年四月一〇日福岡県西福岡財務事務所に提出するとともに有限会社松栄通商振出の約束手形四通(額面三〇〇〇万円支払期日同年九月一五日、額面三〇〇〇万円支払期日同月二〇日、額面二三〇〇万円支払期日同月二五日、額面二三〇〇万円支払期日同月三〇日、いずれも第一裏書人鈴木産業有限会社)を差入れ、同年三月分申告書を同年四月二六日提出するとともに、有限会社松栄通商振出の約束手形三通(額面一億円支払期日同年一〇月五日、額面一〇〇〇万円支払期日同月一五日、額面五〇〇万円支払期日同日、いずれも第一裏書人鈴木産業有限会社)を差入れ、同年四月分申告書を同年五月二二日に提出するとともに有限会社松栄通商振出の約束手形三通(額面三八〇〇万円支払期日同年一一月一〇日、額面三七一〇万円支払期日同月二五日、額面二七〇〇万円支払期日同日、いずれも第一裏書人鈴木産業有限会社)を差入れたが、右約束手形はいずれも不渡となつたことが認められる。

地方税法七〇〇条の二七第一項に定める軽油引取税不納入罪は、軽油引取税の特別徴収義務者が軽油引取税に係る納入金の全部又は一部を納入期限内に納入しないことにより成立する。同罪は、同条の二七第二項に定める罪とは異なり、詐偽その他不正の行為によることをその構成要件とはしていないので、前記の如く特別徴収義務者が納入期限内に納入金の全部又は一部を納入しないことにより本罪は成立し、故意としては納入金不納入の認識、認容があれば足り、積極的に不正行為の認識、認容を要するものではない。

弁護人主張の納入金不納入の認識、認容に加えて更に積極的な不納付の意思(脱税の意思)を要するとの点は、その趣旨必ずしも分明ではないが、前記の如く不正行為の認識を要しないものであることは法文上も明白であり、本罪の主観的要件としては納入金の全部又は一部を納入期限内に納入しないことの認識、認容があれば足り、それ以上の積極的な意思を要するものではないと解するのが相当であるので、弁護人の右主張は採用しない。

前記の如く昭和五七年二月分についてはその納入期限である同年三月三一日までに納入金の納入が全くなされていないことは明らかである。従つて、被告人に不納入の意思の存したことは明白と解さざるをえない。

同年三月分、四月分については、それぞれの納入期限である同年四月三〇日及び同年五月三一日までに鈴木産業有限会社裏書の約束手形が差入れられているので、これを納入金の納入と解しうるかが問題となる。

福岡県税条例施行規則二三条によると納入金の納入は現金によるのを原則とし、現金に代えて徴収金の納入に使用することができる証券は、同規則二三条の二に法定されており、本件において被告人の差出した約束手形は、いずれもこれに該当しないことは明らかである。右約束手形は、同規則二三条の三第一項四号により納入の委託(地方税法一六条の二第一項三号)を受けることができる有価証券に該当する可能性も存するが、納入の委託により納入義務の消滅するものではなく、納入委託を受けた有価証券を徴税吏員においで呈示し、現金を受領し、納入金に充当されてはじめて納入金の納入がなされたものとされるものである。

従つて、三月分、四月分については、納入期限内に前記の如く約束手形がいずれも裏書交付されているが、これをもつて納入金の納入がなされたものと解することはできず、被告人においてもこの点についての認識、認容に欠けるところがなかつたことは明らかである。

以上判示のところから被告人に不納入罪の犯意の存したことは優に肯認することができる。

阿部との共謀の点についても、鈴木産業有限会社が秋定砿油株式会社から仕入れた軽油は、いずれも阿部の経営する大新商事株式会社へ販売されており、秋定砿油からの仕入れ価格及び大新商事への販売価格はいずれも阿部において定めており、被告人は一リットル当り一二円から一五円程度の口銭を受領するにとどまり、大新商事から一リットル当り二四円三〇銭の軽油引取税相当分を徴収していないことは、被告人のみならず、阿部においても熱知していたことが認められる。阿部は被告人において軽油引取税相当分をはるかに下回る口銭しか入らないことを認識しながら、被告人から継続的に大量の軽油を購入しており、阿部においても、被告人が納入金不納入となることを十分承知しながら取引を続けていたことは明らかである。以上の点から考えると被告人と阿部との間に納入金不納入の共謀の存したことは明白である。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも刑法六〇条、地方税法七〇〇条の二七第四項、第一項、七〇〇条の一一第二項に該当し、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い別紙犯罪一覧表番号2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人の負担とすることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(金山薫)

犯罪一覧表<省略>

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